2001年8月1日 第12刷発行。


盛田昭夫は、1921年1月26日生まれ、1999年10月3日に逝去した、愛知県名古屋市出身の技術者、実業家、そして井深大と共に、日本が世界に誇る企業のひとつであるソニーグループ株式会社の創業者です。
本書は、その生い立ちから、海軍生活を経て太平洋戦争敗戦を迎えた焼け跡の東京から事業を立ち上げて、いち町工場に過ぎなかった東京通信工業が、世界のソニーへと成長していく様子を本人自身が語ったもので、元々は英語で出版されたものを日本語版として発表し直したという変則的なものになっています。
それだけに一読しただけで直接的に伝わってくるのは、創業時から変わらないソニーが持つスピリットのようなもの－盛田昭夫自身も「本書は私の履歴書ではない。幸いにも、諸外国の人びとに知られるようになったわれわれの会社『ソニー』の発展の過程を通して、日本的経営思想や、欧米のそれとの違いを明らかにしようと試みたのである」と、本書の始めに断り書きをしているように、特定のテーマだけに的を絞って海外の読者向けに簡潔に記した内容を、改めて日本語に翻訳することで、彼らが創業時から築き上げた思想や哲学がよりわかりやすくなりました。
今やソニーといえば、電気製品のハードウェア分野に留まらず、映画（ソニー・ピクチャーズ）音楽（ソニー・ミュージック）アニメ（アニプレックス）などのソフトウェア分野、そしてこれらを横断するゲーム＆ネットワークサービス（プレイ・ステーション）金融事業（ソニー・フィナンシャルグループ）まで事業は広がり、単なるコングロマリットではない、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティヴ・エンターテイメント・カンパニーを謳うようになりましたが、その歩みは必ずしも順風満帆ではなく、近年では21世紀初頭に危機が噂されたこともありました。
しかし、それらを含めた危機を乗り越えてこれたのは、本書が啓示しているような企業（≒起業）集団としてマーケットに挑戦してきたスピリットによる部分が大きいのだと思います。
もちろん、本書は初めて発表されたのは1986年であり、当時と現在を単純に比較することはできないでしょう。
発表当時は、世界中に日本製の電機製品が溢れ、日本製の自動車がシェアを獲得するため、日本と米国を中心とした貿易摩擦が生じていましたが、今や世界中の電機製品は韓国や中国のメーカーのものに変わり、自動車の世界も内燃機関から電化の流れを睨みながら、日本車の牙城は脅かされようとしています。
しかし、取り巻く環境は変われど、日本の産業が本来持つポテンシャルを発揮する機会や方法は必ずあるはずで、そのためのヒントを本書は与えてくれると思います。
時代の変化に合わせていく強かさ、或いは、時代が変化しても守っておかなければならない強靭さ。
改めて偉大な先達から学ぶことは多いと思わせる一冊です。


経年による色褪せやキズが少しあります。
それ以外は美品です。